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脳と記憶のはなし

読書とパズル、脳の使い方はどう違う?

読書とパズル、脳の使い方はどう違う?
イラスト:サエコさん(冴える習慣ラボ)

「パズルは頭にいいらしい」と聞いてナンプレを始めたけれど、本のほうは何年も読んでいない。あるいはその逆で、本は読むけれどパズルは苦手。どちらも「頭を使う」ことに変わりはなさそうですが、実は使っているものが少し違います。今回は、公的な調査と研究をたどりながら、読書とパズルの性格の違いを整理してみます。

まず、数字を眺めてみる

文化庁の「令和5年度 国語に関する世論調査」に、読書についての設問があります。1か月に何冊くらい本を読むかという問いへの回答は、次のとおりでした。

  • 「読まない」…62.6%
  • 「1、2冊」…27.6%
  • 「3、4冊」…6.0%
  • 「5、6冊」…1.5%
  • 「7冊以上」…1.8%

1冊以上読む人は36.9%。6割以上の方が「読まない」と答えています。

さらに、読書量が以前に比べて減っているかという問いには、**69.1%が「減っている」**と回答しました。「それほど変わっていない」は24.5%、「増えている」は5.5%です。

減っている理由として最も多かったのは「情報機器で時間が取られる」で43.6%。次いで「仕事や勉強が忙しい」38.9%、「視力など健康上の理由」31.2%と続きます。このうち視力を挙げる割合は、年齢が高いほど上がる傾向があります。

読まなくなったのは気持ちの問題だと思っていた方も、案外そうではないのかもしれません。

パズルで上手くなるのは、そのパズル

「脳トレ」については、規模の大きな検証があります。オーウェンらが2010年に科学誌ネイチャーに発表した研究です。

18〜60歳の11,430人が6週間のオンライン訓練に参加しました。推論・計画・問題解決を扱う課題群と、短期記憶・注意・視空間処理・計算を扱う課題群、そして雑学クイズに答える対照群に分かれています。

結果はこうでした。訓練した課題の成績は、はっきり伸びた。練習を重ねた分だけ成績は上がっています。ところが、訓練していない課題への持ち越し(転移)は認められなかった。研究者は、認知的に近い課題であっても転移の証拠は見つからなかった、と書いています。

「意味がない」という話ではありません

この結果は、ときに「脳トレは無駄」と乱暴に紹介されます。けれど読み方としては、通用する範囲が思ったより狭いというのが正確なところだと思います。

ナンプレを続ければナンプレは上達します。それは確かなことです。ただ、その上達が買い物の段取りや人の名前の出しやすさまで自動的に運ばれてくるかというと、この研究はそこに慎重な線を引いた、ということです。

上手くなるのはうれしいものですし、毎日の楽しみとしての価値は変わりません。過大な期待を背負わせないほうが、かえって長く付き合えます。

読書は、決まっていないものを相手にする

一方の読書はどうでしょうか。

パズルには、あらかじめルールと正解があります。枠の中で手を探す作業です。だから同じ形式を繰り返すほど手際がよくなる。先ほどの研究の結果とも、素直につながります。

読書はそこが違います。次のページに何が書いてあるかは分かりません。知らない言葉が出てくる。話がいつ本筋に戻るか分からないまま、前に読んだ場面を頭の片隅に置いておく必要があります。人物の関係も、著者の言い分も、読みながら組み立て直すことになります。

つまり読書は、言葉を扱いながら、決まっていない文脈を保ち続ける作業です。同じ「頭を使う」でも、パズルとは負荷のかかり方が違います。

ごく大まかに並べると、こうなります。

パズル 読書
ルール 決まっている 決まっていない
ゴール 正解がある 読み終わりはあるが正解はない
主に扱うもの 図形・数・規則の探索 言葉・文脈・他者の視点
上達の実感 得やすい 得にくい

どちらが優れているという話ではありません。性格が違うので、どちらかで代えがきかないというだけのことです。だとすれば、片方に寄せるより、両方を少しずつ置いておくほうが自然です。

言葉が出てこない場面そのものの仕組みについては、人の名前がすっと出てこないのはなぜ?加齢と記憶の仕組みにまとめています。

読書が続かないときの小さな工夫

先ほどの調査で「視力など健康上の理由」が3割を超えていたことを考えると、意志より先に、環境のほうを見直す価値がありそうです。

  • 明るさを足す:手元だけを照らす小さな灯りを1つ加えるだけで、読みやすさが変わることがあります
  • 大きな活字の本を探す:公立図書館には大きな活字の本を置いているところがあります。窓口で尋ねてみてください
  • 電子書籍で文字を大きくする:タブレットやスマホなら、文字の大きさを自分に合わせられます
  • 耳で聴く形も数に入れる:朗読や録音図書という形もあります。読み方はひとつではありません
  • 1日10分と決める:最後まで読む義務はありません。途中でやめた本が何冊あってもかまいません
  • 画面を持ち込まない時間を作る:減った理由の1位は情報機器でした。手の届かない場所に置くだけで十分です

学びの場という、もうひとつの選択肢

ひとりで読むだけが方法ではありません。内閣府「令和7年版高齢社会白書」によれば、65歳以上で**何らかの学習活動に参加している人は28.4%**でした。内容の内訳は、家政・家事(料理・裁縫など)12.0%、芸術・文化10.6%、パソコンなどの情報処理10.4%となっています。

同白書では、社会活動に参加した人のうち生きがいを「十分感じている」「多少感じている」と答えた人が84.6%、参加しなかった人では61.6%だったことも示されています。ただしこれは、参加が先かどうかを区別できる数字ではありません。方向を示すヒント、くらいの受け取り方がよさそうです。

読書会や講座は、読む・解くに「人と話す」が加わります。パズルにも読書にもない要素なので、三つ目の選択肢として覚えておくと選びやすくなります。

歩きながら頭を使う方法については、デュアルタスクとは?歩きながら頭を使う習慣の始め方でも取り上げました。

まとめ

  • 1か月に本を「読まない」人は62.6%、読書量が「減っている」人は69.1%(文化庁)
  • 減っている理由の1位は情報機器(43.6%)、3位は視力など健康上の理由(31.2%)
  • 11,430人が参加した研究では、訓練した課題は伸びた一方、訓練していない課題への転移は認められませんでした
  • パズルはルールのある枠内の探索、読書は決まっていない文脈を保ち続ける作業。性格が違うので代えがきかない
  • 続かないときは、意志より先に明かり・文字の大きさ・置き場所を見直す

同じ「頭を使う」でも、中身は思ったより違います。今日はナンプレ、明日は数ページだけ本を開く。それくらいの気軽さで、両方を暮らしに置いておく方法もあります。

参考にした情報


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